干立のおなじみさん・ウスバキトンボ



トンボ王国・沖縄

 日本にはトンボは186種が定着していますが、国土の0.6%にすぎない沖縄県には、全体の⅓以上にあたる70種1亜種が定着しています。その多くは台湾や東南アジアと共通種です。本州との共通種は極めて少なく、八重山諸島ではギンヤンマやオオシオカラトンボ・コフキトンボなどごく僅かにすぎません。

 また、固有種・固有亜種が多いのが特徴で、県内では24、八重山諸島では13に上ります。島に隔離されることによって、島内に見られる様々な環境に適応して独自の進化をした結果であると考えられます。

 さらに、沖縄県は飛来種(偶産種・迷トンボ)が多いことも特徴の一つです。台風や季節風に乗って台湾や東南アジアから15種が、東アジアから4種が記録されています。


ウスバキトンボ 〜世界を放浪するパイオニア〜

 干立集落で最もよく目にするのはウスバキトンボPantala flavescens(ウスバキトンボ属)です。全長50㎜ほどで、透明な翅に体は黄土色やオレンジ色です。海岸から平地・低山地にかけて見られます。水田や水たまりなどの止水で産卵し、わずか1ヶ月ほどで成虫になります。成虫になると水辺を離れます。色が地味なためかほとんど気に留められず、名前すら知られていませんが、全世界の熱帯から温帯にかけて分布する汎存種の一つで、世界で最も広い生息域を持つトンボなのです。

 アメリカ西部とカナダ東部・日本・韓国・インド・南アフリカの個体で遺伝子パターンを解析・比較したところ、ほとんど違いがないという結果になりました。これは大陸・大洋を越えて遺伝子の交流が行われている可能性が極めて高いことを意味しています。最長の渡りをする昆虫は4,000㎞のオオカバマダラ(マダラチョウ亜科)とされてきましたが、ウスバキトンボはこれを上回る7,100㎞の渡りの可能性を示唆しています(Daniel Troast et al.,2016)。その長距離飛行を可能にしているのは、透けるほど薄い外殻と少ない筋肉・薄い幅広の翅による軽い体です。そして羽ばたかず、風を受けて「ふらふらっ」と滑空する飛翔法によると考えられます。




 日本では春に熱帯や亜熱帯から飛来した個体が世代交代を繰り返しながら北上し、4月に中琉球以北の琉球列島や九州・四国上陸、5・6月に本州南部、7・8月には中部山岳地帯や東北地方、9月には北海道に達します。8月には各地で大群が見られ、「精霊とんぼ」「盆とんぼ」と呼ばれています。北上はカムチャツカ半島にまで達しますが、寒さに弱く晩秋に死滅します。ヤゴも4℃で死滅することから、日本列島での越冬は行われていないようです。越冬可能な地域を遥かに越える北上のような行動を「死滅回遊」や「無効分散」といいます。一見無駄死に見えますが、結果的に全世界に分布域を広げていることを考えると、努力は実を結んでいるといえます。頼り無げな「フラフラ飛び」もパイオニアの証に見えてきます。

 八重山諸島には定着しているので、一年中見ることができます。カーチバイ(夏至南風)や台風の後などに大群が観られるのは、東南アジアや大陸からの北上する群です。これらの中には、太平洋を横断してアメリカを目指して旅に出るものもいるに違いありません。「お前はどこへ行くんだ?」と問いかけたくなります。