南国を彷彿とさせる植物
西表島を訪れてアダンやマングローブといった印象的な熱帯の植物に出会い、再び島を訪れてこれらの植物を目の前にした時、
「あぁ、また島に帰ってこられた…」
と感慨を深くした経験のある方も多いのではないでしょうか。そのような植物の一つに、クワズイモAlocasia odora(サトイモ科クワズイモ属)があります。
クワズイモがなぜ印象的かを考えると、サトイモ科の植物だからに他なりません。最大の特徴はその大きさです。高さは人の背丈を超え、英名でGiant elephant’s ear(巨大な象の耳)と称される葉を持ちます。当然、この巨大な葉を見れば、誰しも大きな里芋の煮っころがしを連想して「わー…♡さすが西表!」と夢が膨らむわけです。その直後にうすら笑いを浮かべたガイドの「クワズイモって言うんですよね〜。毒があるので食べられませ〜ん」という解説に、夢は脆くも打ち砕かれるわけです。そんなこともあって、クワズイモは多くの方の心に深く刻まれています。
クワズイモの分布と特性
クワズイモは東南アジアから東アジアの熱帯域に分布する常緑の多年生草本で、日本では琉球列島から九州南部・四国南部に見られ、五島列島の八幡神社を北限とします。
地上部はサトイモColocasia esculenta(サトイモ科サトイモ属)とよく似ていますが、根茎は塊状にならず、棒状の根茎が地表を這う様子を観察できます。葉は長さ60㎝幅50㎝になる少し縦長のハート形で、葉柄の長さは1mになります。生育場所は林床や林縁部で、集落でも普通に見られます。花はウルヂム(陽春)の頃から夏まで見られ、クリーム色で穂状に咲きます。主軸が肉厚な肉穂花序で、ミズバショウと同じタイプです。葉の変形した苞(ほう)によって包まれており、その様子が仏像とその背後に設けられた光背のように見えることから仏炎苞と呼ばれています。別名Night-scented Lily(夜に香るユリ)と呼ばれるように甘い香りを発します。果実は朱赤色に熟します。
クワズイモ属の毒成分はシュウ酸カルシウムとシアン化合物が知られています。「サトイモの仲間だから調理の仕方で食えるはずだ。」とか「気合いが足りないからだ。」などと探検家を気取った昭和の大学生が果敢に挑戦していましたが、全員返り討ちにあったことは言うまでもありません。シュウ酸カルシウムは細胞内に針状の結晶体で存在していて、咀嚼することによって口や喉などの粘膜に突き刺さり、痒みや痛み・腫れ・吐き気・嘔吐・下痢などの症状を引き起こします。皮膚に付いた汁液が皮膚炎を起こすこともあるようです。シアン化合物についてはまだよくわかっていません。
利用価値の高い植物としての姿
ここからは普通のガイドさんは知らない話。西表(※)ではクワズイモをカサンパとかカサヌパと呼んでいます。名前からわかるように傘がわりに使えます。森で豪雨に降られた時には大きな株で雨宿りができ、コロポックルの気分を味わえます。食用にはなりませんが、西表の有用植物の一つです。山中で水を飲む時にイモール(柄杓)を作ることは知られていますが、その他にも様々な用途に使われていました。
西表ではカサンパ(クワズイモ)とビーカサンパ・ンバシの3種(現在は4種)のクワズイモ属が知られ、島の人はそれぞれを使い分けていました。
野外で皿として料理を盛るのにはカサンパを使います。普通の葉は縁に葉柄が着きますが、楯を腕で持って構えるように、縁ではなく中央寄りに葉柄が着くことを楯着といいます。
ハスやオオバギ・ハスノハギリが楯着の代表的な例ですが、カサンパもわずかに楯着していることで、汁気を漏らさずに盛ることができるのです。
一方、葬式の時だけは楯着していないビーカサンパを使ったそうです。ンバシは網取集落の種子取祝いでイバチ(粳米のおにぎり)を握る時に使っていたそうです(安渓,2007)。干立の防災儀礼シマフサラーでは、解体した鶏の臓物をバサフニ(芭蕉の舟)に乗せて流す際に、カサンパに包んで載せます。
※西表とは祖納を中心に干立・船浮・網取・鹿川の小村で構成された西表村のこと。かつて西表島西部は、これらの集落しか人が住むことはできなかった。18世紀に琉球國の蔡温による寄人政策により上原や浦内・崎山などに強制移住による新村が創建されたが、全てマラリアで壊滅している。
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