■稲作文化をいまに繋ぐ「ユーニンガイ」
「世願い祭」と書いて、ユーニンガイと読みます。田んぼに植えた苗が、無事に成長するように神々にお願いをする神事です。干立では三大行事の一つで、嶽人数(ヤマニンズ)全員が参加するだけでなく、近隣の要人を招待して盛大に行ないます。
時節は植え付けた稲が根付いて分蘖が始まる頃で、旧暦三月です。新公民館長が取り組む最初の行事で、新暦4月中〜下旬に行います。また、旧暦二月に行なわれた二月崇日の「稲草葉の願い(フサバニガイ)」は、現在はユーニンガイで行なわれています。
もっぱらムラングトゥ(公民館員総出の共同作業)を前日に行ない、フタデウガンとその周辺・集落入口の草刈清掃や供物料理造り・嶽人数用の食事造りなどを行います。フタデウガンの会場作りは当日の朝からです。午後からチカ(神司)はそれぞれのウガン(御嶽)で祈願します。その後チカはフタデウガンに集まり祈願をし、引き続き祝賀会を行います。大きな物音は稲の成長の妨げとなる時期なので、来賓がスピーチをしても、拍手は慎しまなければなりません。
■この日だけの料理・ブンヌス
ユーニンガイを象徴するものにブンヌス(スーマーシ)があります。病害虫に侵されないよう祈願をする際に、神々へ捧げる供物料理の一つで、ユーニンガイの時のみ供される料理です。
材料は、山の幸のサクナPeucedanum japonicumとパンスーHemerocallis fulva var. sempervirens・ピルAllium sativum・ミチナPortulaca oleracea、海の幸のテチパヤSiphonaria japonicaとカテCellana testudinaria・フチマAcanthopleura japonica・イゲシBetaphycus gelatinusです。稲の根がしっかりと根付くことを祈願するため、ブンヌスの材料は根の強い植物や岩礁にしっかり着生する貝などが用いられています。(※興味のある方は学名から地方名の物が何かを調べてみてください)
海の幸は、男性公民館役員が中心となり品採りの日に採っておきます。いまは集落近辺では採れなくなったイゲシは購入しています。山の幸は主にムラングトゥで婦人が採りますが、ミチナは近年集落近辺にないため、和名ミルスベリヒユSesuvium portulacastrum(南アフリカ原産の帰化植物)が用いられています。
これら全ての材料を拵えたら、チカに引き渡します。チカが味噌をベースに味付けし、テニスボールほどの団子に仕上げて完成です。
現在のユーニンガイは以上の通りです。しかし、二月崇日がいつ頃ユーニンガイに吸収されたのか、ユーニンガイのどの辺りが二月崇日の要素なのか等、気になることがいくつかあります。追い追い先輩方に教えてもらおうと思っています。
■地域文化の魅力がかすむ令和二年度
ユーニンガイのムラングトゥでパンスを拵える作業がとても印象的です。婦人部員とすでに婦人部を卒業された先輩方が一緒に公民館で円になって拵えます。この時ばかりは80代90代のおばあ達までも円に入ってきてパンスを手に取り、指導しながら拵えていきます。きっと、今年のパンスの出来映えなどを気にせずにいられないのでしょう。様々な会話が交わされ、館員総出の作業の醍醐味を感じられる時間です。
今年は新型コロナウイルス感染拡大防止の影響でこの円を囲む人が少なく、寂しさを感じました。ムラングトゥも短時間でほぼ掃除だけとなり、いつもなら婦人部が用意する昼食やブガリナオシの料理を館員が揃っていただきますが、それもありません。ユーニンガイ自体も規模を縮小し、神役関係者と公民館役員のみで挙行しました。新型コロナウイルスは僻地の地域文化にも大きな影響をもたらしています。
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